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​「東洋思想と心理療法」研究会

​森山敏文(広尾心理臨床相談室)

1.はじめに

 「東洋思想と心理療法」研究会の初会合は,駒沢大学の中央講堂に於て,「東洋思想を心理療法に活かす」をテーマとして1999年3月20日(土)に開催された。(略)
 この研究会は,学術的な集会という一面を持つ一方で,専門家同士による専門的な議論を目指すというよりも,日頃,心理療法の仕事に携わっている実践家たちにとって,さまざまな東洋の思想・価値・哲学・文化・宗教などを学び考える機会となることを意図して始められたといってよい。日常顧みる機会の少なくなった東洋思想に改めて触れることによって,心理療法の実践とその工夫のために,本会の世話人を始めとした会合への参集者にとって細やかなりとも役立つ企画を行いたい,という大望がその原点である。
 このため,当初から徒に専門性を主張することなく,東洋思想を巡る多様なテーマに関心があり興味を持つ人たちによる,参加資格を問わないオープンな会合という形となっている。組織のあり方も会員制ではなく,今なお,複数の世話人による同好会のごとき小規模の運営が基本である。

2.本会の始まりと経緯について

 第1回から2003年の第5回の会合までは,本邦における摂食障害の治療と研究のパイオニアであった故下坂幸三(略)が代表世話人を行っていた。下坂は自らをフロイト主義者と呼び(日本精神分析学会により古沢賞を授与されてる),永年に亘り精神分析的な精神療法(個人・家族)の実践と研究に文字通り心血を注いでいた。後年は家族を視野に入れた治療と研究へと展開(常識的家族療法の提唱など)し,数多の業績とともに開業精神科の臨床医として活躍されていたのは周知の通りである(本学会の理事長も歴任されている)。
 そもそも,下坂は本邦の(精神医学や臨床心理学の)研究者や臨床家が,これまで欧米からの輸入による学問や知識を,過度に礼賛しあたかも無批判に取り入れ頼みとしてきたごとき風潮に疑問を持っていた。臨床家自らが脚下にある(日本を始めとした)東洋の思惟,思想を応分の価値あるものとして光を当て,評価し直すこと,そこから心理療法の実践に役立つものを見つけ掘り起こし利用することの重要性を,折りにふれて説いていた。
 東洋思想を学ぶといっても,純粋的学問的な追及や思想家や哲学者になることを目指すのではなく,あくまでも心理(精神)療法家として活用できるものとして,東洋の思想・思惟・哲学に着眼したのである。この会の発足を強く望んだ下坂の発声で,門下生を始めにこれまで学恩を受けた臨床家(本会の趣旨に賛同・共鳴の意志を示された)を中心に参集し,運営母体として世話人会ができた。何よりも,本会の設立に伴う想いは,当時の代表であった下坂による研究会の趣意の文言に表れていると思う(ホームページをご覧ください)。
 ところで,この会合を始めるのに当たっては,同じ世話人の賀陽濟(精神科医)と筆者,そして下坂の三人で,田無神社に集まり会合発足のための打ち合わせを行った。田無神社というのは,賀陽濟が宮司という訳があり,三人の決意を色紙に著わして奉納したという経緯がある。先述のごとく,その後,間髪を入れず有志を募り,これに呼応して現在の世話人が参集。さらに顧問として,西園昌久(心理社会的精神医学研究所・心療内科医),佐々木雄二(横浜薬科大学・心療内科医)のお二人にも加わっていただき会合の骨格ができ上がった,という次第である。
 (略)設立までの準備を加えて考えてみると,すでに10年以上時が経った。想えば,下坂が自らのクリニック内において「正法眼蔵を読む会」(その成果は家族研究・家族療法学会における特別講演「道元と家族療法」として発表)を始め,それを契機としさらに発展し,本研究会へと結実したといえる(先生のご高齢に伴う事情も重なり,第6回目以降は,筆者が代表を引き継いだ)。
 本研究会にご関心のある向きは,これまでの大会のテーマ,開催予定などを掲載しているので,ホームページを参照ください(略)。

出典:森山敏文 2007 「東洋思想と心理療法」研究会 家族療法研究, 24(3), p.71.

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